日本第四紀学会
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だいよんき Q&A


琉球列島における過去1万〜1千年前の花粉分析に関する文献はありますか? 特にイネとスダジイ、リュウキュウマツの花粉に関する文献を紹介してください。

質問者 : 元教員(東京都)

 

 文献はあります。下に論文リストを載せました。

 花粉分析では通常光学顕微鏡で行います。光学顕微鏡レベルでは、イネ、スダジイ、リュウキュウマツなどの種までは厳密にいうと同定できません。 属レベルです。ただし、スギなどの1属1種は別です。イネについては科レベルが普通です。位相差顕微鏡を使用すれば、イネ科については、 栽培タイプのイネ科か、あるいは非栽培タイプ(野生)のイネ科の区別はできます。花粉分析ではイネ科については、 通はGramineaeイネ科として一括され表示されています。 私が報告した例では、写真入りでイネ、スダジイ、リュウキュウマツなどの種について記載したものはありません。 べて、光学顕微鏡による同定です。そのため、属レベルが主です。イネに関しては、科レベルもしくは、栽培型イネ科が含まれているか、 いないかのレベルです。花粉分析ではみな属レベルです。ただし、記載をする場合は別ですが。藤木利之・小澤智生(2007)は、 イネ、リュウキュウマツ等の花粉について記載しています。

 黒田登美雄・小澤智生(1996a)などは、リュウキュウマツに関しても、マツ属として集計されています。 スダジイについても同様でシイ属として集計されています。 伊是名島で行った花粉分析結果で、マツ属をリュウキュウマツと解釈したのは、たまたま、 電子顕微鏡でマツ属の花粉を同定してもらったことによります。それから、現在伊是名島で自生しているマツがリュウキュウマツであることから、 花粉分析でマツ属と同定されたものはリュウキュウマツとして解釈することはあるかもしれません。

[参考文献]

  • 琉球列島における完新世の花粉分析に関する論文
    • 黒田登美雄・小澤智生(1996a)花粉分析からみた琉球列島の植生変遷と古気候.地学雑誌,105(3),328-342.
    • 黒田登美雄・小澤智生(1996b)花粉と海成動物化石からみた琉球列島の第四紀環境変動.月刊地球,18(8),516-523.
    • 黒田登美雄(1998)南西諸島の植生史.『図説日本列島植生史』安田善憲・三好教夫編集,朝倉書店,162-175.
    • 黒田登美雄・小澤智生・古川博恭(2000a)最終氷期における琉球列島の古気候について,公開シンポジウム海上の道再考―人類と文化の潮流―予稿集,14-18.
    • 黒田登美雄・小澤智生・古川博恭(2000b)最終氷期における琉球列島の古気候について,日本人と日本文化その起源をさぐる,日本人および日本文化の起源に関する学際的研究,News letter No.12, p.18.
    • 黒田登美雄・小澤智生・古川博恭(2002)古生物からみた琉球弧の古環境,木村政昭(編)琉球弧の成立と生物の渡来,85-102,沖縄タイムス社.
    • 松岡数充・西田史朗(1978)沖縄本島第四系の化石花粉(予報).琉球列島の地質学研究,3,123-128.
  • 琉球列島の花粉に関する記載がある図鑑
    • 藤木利之・小澤智生(2007)琉球列島産植物花粉図鑑,アクワコーラル企画
    • 三好教夫・藤木利之・木村裕子(2011)日本産花粉図鑑,北海道大学出版会

回答者 : 黒田登美雄
2012年5月14日掲載

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