だいよんき Q&A
縄文時代後・晩期の海退時における古鬼怒湾(古霞ヶ浦)沿岸の想定海岸線を文献から調べております.
しかし,充分に納得の行く結論(年代論的に)が得られず困っております.
特に,霞ヶ浦周辺における縄文時代後・ 晩期以降の隆起現象が海退へ与えた影響を解説した文献は存在しますか?
質問者 : 大学生(埼玉県)
残念ながら縄文時代後・晩期に関して霞ヶ浦の地域で地形と年代を詳細に論述した論文は無いかと思います. 約6千年前の海水準が霞ヶ浦周辺域では,現在よりも高い水準に認められますが, これは主にはハイドロアイソスタシーの効果によるものです. それ以降,相対的に徐々に海水準は低下して現在の水準になっています. 関係する論文としては,以下のものが参考になるかと思います.
和島ほか (1968)によって命名された古鬼怒湾の海水準と霞ヶ浦の湖岸地形については, 以下のような文献があります.
[古鬼怒湾関係]
- 和島誠一・松井 健・長谷川康雄・岡本 勇・塚田 光・田中義昭・中村嘉男・小宮恒雄・黒部 隆・高橋健一・佐藤 孜(1968)関東平野における縄文海進の最高海水準について.資源科学研究所彙報,no. 70, 108-129.
- 斎藤文紀 (2008) 研究史からみた関東平野の沖積層.日本地質学会編,日本地方地質誌「関東地方」,朝倉書店, pp. 369-380.
[湖岸地形と年代]
- 平井幸弘(1989)日本における海跡湖の地形特徴と地形発達,地理学評論,62, 145-159.
- 籠瀬良明(1975)隆起砂州上の潮来ー古鬼怒湾の海面高ー.地理,20(8),104-105.
- 籠瀬良明(1976)北浦・霞ヶ浦岸の条理水田と用水.日本地理学会予稿集,10, 217-217.
- 大矢雅彦・加藤泰彦・春山成子・平井幸弘・小林公治・井上洋一・忍澤成視(1986)「3万分の1 霞ヶ浦・北浦周辺地形分類図」建設省関東地方建設局霞ヶ浦工事事務所.
- 豊田麻衣・池田 宏(2003)霞ヶ浦湖岸平野の形成過程.筑波大学陸域環境研究センター報告,no. 4, pp. 61-73.
[霞ヶ浦の一般的な地質]
- 斎藤文紀・井内美郎(1993)霞ヶ浦.アーバンクボタ,32, 56-64.
- 新藤静夫・前野元文(1982)霞ヶ浦周辺低地の環境研究(1)-桜川低地と霞ヶ浦の地形,地質-.筑波の環境研究,6, 173-181.
完新世の海水準変動で約6千年前の海水準が現在よりも高い位置で確認できるには,ハイドロアイソスタシーの効果によるものです.関東平野の詳細な解析結果はありませんが,以下の論文が日本全体を理解する上で役立ちます.
- 中田正夫(1995)最終氷期以降の海水準変動.日下雅義編「古代の環境と考古学」,古今書院,82-108.
- Nakada, M., Yonekura, N., Lambeck, K (1991) Late Pleistocene and Holocene sea-level changes in Japan: implications for tectonic histories and mantle rheology. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoeeology, 85, 107-122.
- 横山祐典(2007)地球温暖化と海面上昇―氷床変動・海水準変動・地殻変動.日本第四紀学会・町田 洋・岩田修二・小野 昭編「地球史が語る近未来の環境」,東京大学出版会.33-54.
回答者 : 斎藤文紀
2011年6月6日掲載
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