だいよんき Q&A
- 1万年前(または縄文海進が始まる直前)と,縄文海進で最も海水面が高くなったときの日本列島の地図を載せた文献はありますか?
- 縄文海進の前,中,後の日本列島の平均気温と列島周辺の海水温を載せた文献はありますか?
質問者 : 無職(東京都)
- 縄文海進で最も海水面が高くなった時の日本列島の地図は,Ota,Y., Matsushima,Y. and Umitsu,M (eds.)(1987)
Atlas of late Quarternary sea level records in Japan 1: Review papers and Holocene. Japanese Working
Group of IGCP Project 200. に添付した「完新世中期の海岸線図」として描いたものが最も詳しいでしょう.
図の縮尺は1:2,000,000 となります.
解説としては,太田陽子・海津正倫・松島義章(1990)
「日本における完新世相対的海面変化とそれに関する問題−1980〜1988における研究の展望−」.
第四紀研究,29,31-48があります.また,日本第四紀学会編(1987)
『日本第四紀地図』の先史遺跡・環境図の B:最終 氷期(約6万〜1万年前)とC:縄文時代(約1万〜2500年前)
もよいで しょう.図の縮尺は1:4,000,000となります.
なお,日本列島の1万年前(または縄文海進が始まる直前)の地図は完成していないと思います. 東京湾湾奥,東京湾西岸,駿河湾,伊勢湾, 大阪湾などの各地域では詳しく研究されて部分的な復元図は描かれていますが,統一したものはまだないと思います. - 1)縄文時代における日本列島の平均温度は,花粉分析を主体とした植物遺体 による研究がおこなわれているようです.
具体的に各地の温度を数値で示して はいませんが,安田喜憲(1985)は『ブナ帯文化』(思索社)の中で
「日本の ブナ林の自然」をまとめ,ブナ属花粉の出現率から日本列島の古生態・気候区分図を明らかにしました.
同様に,阪口 豊(1993)は『過去8000年の気候変化 と人間の歴史』(専修人文論集51,1993年)において,
日本列島の縄文・弥生 時代の遺跡の分布から縄文時代草,前,中,後,晩期,弥生の気候を示しており,
いずれも参考になると思われます.
2)列島沿岸域における縄文海進最盛期の平均温度は,貝類群集によって松島 義章・大嶋和雄(1974) 「縄文海進期における内湾の軟体動物群集」第四紀研究,13,135-159.が示しています.
3)日本列島を洗う黒潮,対馬海流,親潮については, @大場忠道(1995)「日本海の環境変化」小泉 格・田中耕司編『講座文明と環境』10巻,朝倉書房, A大場忠道(1996)「日本列島周辺の海流変遷―海底コアから見た過去三万年間の海流分布」. 小池一之・太田陽子編『変化する日本の海岸 最終間氷期から現在まで』,古今書院. B松島義章(2010)「完新世における温暖種が示す対馬海流の脈動」.第四紀研究,49,1-10. などの報告がありますが,いずれもずばり各地の海水温を数値で示してはいません.なお, (2)と(3)を一般向けに紹介したのが,松島義章(2010)『貝が語る縄文海進―南関東,+2℃の世界 増補判』, 有隣新書です.
回答者 : 松島義章
2010年6月6日掲載
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