日本第四紀学会
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2006年度研究委員会活動報告

2006年度は以下の5委員会が活動をおこなった。

層序・年代学研究委員会 (委員長:三田村宗樹)

 Subcommission on Asian Quaternary Stratigraphy における2003-2007 Inter-Congress period における活動として、 2006年8月28日〜9月3日の間、Stratigraphy, paleontology and paleoenvironment of Pliocene-Pleistocene of Transbaikalia and interregional correlations をテーマにロシアのウランウデ市において国際シンポジウムが開 催された。参加者はロシアをはじめ、中国・日本・イタリア・ポーランド・オランダ・ルーマニア・デンマークなどから 80名を越えた。日本からは5名の参加であった。口頭発表35件、ポスター発表41 件の発表があった。参加者の多くは、 哺乳類化石を扱う古生物学関係者が大半を占めた。特に主テーマとなったバイカル湖周辺地域の古生物地理の変遷が議論の 中心となり、バイカル湖地域の隆起にともない、バリアが形成されることでユーラシア北部からの動物相と中央アジア側 (中国・モンゴル側)からの動物相の分布がバイカル湖を境界としている点が議論された。シンポジウム後の見学会は2泊 3日でウランウデ北西方からバイカル湖東岸までの地域における模式地となる風成層・段丘構成層を中心とした見学を行い、 それらの地層から産出する哺乳類化石をはじめとする生層序、環境変遷などが紹介された。
 日本第四紀学会の50 周年国際シンポジウムでは、前中期更新統境界問題を取り扱うセッションを企画し、Subcommission on Asian Quaternary Stratigraphy の委員長であるN.Alexeeva氏と連絡を取りながら企画を行った。本シンポジウムでは、 日本が提案する千葉セクションをはじめ、ロシア・ユーラシア・中国地域の前中期更新統境界の環境変化・生物相の変化など について、話題提供を要請・調整をおこなっている。
 本年7月28日からオーストラリアのケアンズで開催される2007年INQUA大会では、期間中に開催されるCommission on Stratigraphy and Chronology のビジネスミーティングで2003-2007 Inter-Congress period における活動報告がなされると ともに、Subcommission on Asian Quaternary Stratigraphyの存続が討論される予定であるが、事前の情報によれば、この Subcommission は継続される予定である。継続される場合には委員長は中国のJin Chanzhu 氏、副委員長は三田村宗樹と N. Alexeeva氏が推薦される予定。Jin Chanzhu 氏は新委員会のフルメンバーに新たに推薦され、次期Inter-Congress period のactivities が提案される予定で、その中に日本第四紀学会の50周年国際シンポジウムが紹介される予定である。 (三田村宗樹・熊井久雄)

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海岸・海洋プロセス研究委員会 (委員長:海津正倫)

 2006 年8 月にタイ国プーケットにて日本第四紀学会海岸線委員会の共催のもとに"International Conference on the Mitigation of Natural Disasters in the Tsunami Affected Coastal Regions of Tropical Asia" を開催したほか、 本年8月にはベトナム国ホーチミン市において"AA Platform International Conference on Natural Disaster Mitigation in the Coastal Regions of Tropical Asia Mangroves:Important Issue for the Coastal Environment"を開催し、日本の 第四紀研究者と海外の研究者との交流をすすめる予定である。
 追伸:本年度も各メンバーが個人的に活動を進めたため、研究委員会としての活動費は使用しませんでした。

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テフラ・火山研究委員会 (委員長:鈴木毅彦)

 INQUA Commission on Tephrochronology (COT)は、1991年INQUA北京大会で承認されたCommission であり、1987年に設立さ れたThe Inter-Congress Committee on Tephrochronology (ICCT)の流れを汲むものであった。1995 年INQUAベルリン大会での Commission on Tephrochronology and Volcanism (COTAV)への名称変更後も引き続き活動してきた。しかし2003年リノ大会を もってCOTAVは解散し、現在、COTAVは新しく組織された委員会であるStratigraphy and Chronology のサブユニット (INQUA Sub-Commission for Tephrochronology and Volcanism: SCOTAV)として位置づけられている。SCOTAV の国内窓口は テフラ・火山研究委員会である。
 最終活動年度にあたる2006年度においては、シンポジウム・野外集会等の実質的な活動は行わなかった。一方、2007年度 以降のテフラ・火山研究委員会(あるいはその後継となるべき委員会)の活動として、南九州における野外集会の開催につい てその可能性を検討した。これは当初、2006年度に開催する方針であったものであるが、各種事情により2007年秋以降に開催 予定となったものである。また、次回2009年のINQUA Sub-Commission for Tephrochronology and Volcanism (SCOTAV)の開催に 関し、日本での開催について引き続き検討しており、オーストラリアケアンズでのINQUA17回大会ではこの件についての可能性を さぐる予定である。

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ネオテクトニクス研究委員会 (委員長:吾妻 崇)

 ネオテクトニクス研究委員会は、INQUAの陸域プロセス委員会内の古地震小委員会(Subcommission on Paleoseismicity)の運 営に対応した国内活動を進めている。2006-2007年活動期において、本委員会ではINQUA震度階計画(INQUA Intensity Project) への国内対応と2007年3月に地震が発生した能登半島を対象とした海成段丘と活断層に関する野外集会を開催した。
 INQUA震度階計画は、2003年INQUAリノ大会の際に古地震小委員会で提案された計画であり、地震に伴う地質的な諸現象 (地表地震断層、地すべり、液状化現象など)の規模と分布による地震の大きさの評価を試み、各国における事例を収集しつつ、 震度区分の検討等を行っている。国内においては試行的研究として1995年兵庫県南部地震と2004年新潟県中越地震を対象として、 震度分布図作成を進めた。前年度活動期間に国際学会と国際シンポジウムで日本と台湾における事例研究を発表し、今年度はその 内容をGeological Society of Londonの特集号に投稿した。また、2007年ケアンズ大会で小委員会に提出されるINQUA震度階報 告書修正版作成の検討に加わった。国内に向けては、2007年神戸大会において、改訂されたINQUA震度階区分をポスター発表で紹介 するとともに、前述の日本での事例研究に2007年3月の能登半島地震に関する速報的な調査結果を追加した成果を発表することに している。
 野外集会は、2007年8月9日から11日にかけて、能登半島で行われた。現地での説明は、太田陽子と吾妻 崇が行った。 参加者は説明者を含め、12名であった。1日目には2007年能登半島地震の震源域周辺における海岸隆起や被害状況について、 2日目には能登半島に発達する海成段丘とそれを変位させる活断層の意義について、3日目には邑知潟断層帯の活動時期と 規模評価について、それぞれ現地で観察しながら検討した。

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高精度14C年代測定研究委員会 (委員長:中村俊夫)

 2000 年第四紀学会歴博大会におけるシンポジウム“21世紀の年代観−炭素年から暦年へ”およびその際に発信された “佐倉宣言”を受けて、高精度14C年代測定に関する最先端の研究状況や基本的な知識を学会員に対して普及する 事を目的として研究委員会が設置された。2005年には、5年間の活動を終えたが、この間の2003年3月に歴史民俗博物館の研究に 基づいて“弥生時代の始まりがBC10世紀に遡る”ことを強く示唆する14Cデータが発表されたことから考古学研究者を 巻き込んで議論が深まってきた状況を踏まえて、新規に高精度14C年代測定研究委員会を設置することが承認された。
 委員会の活動として、2007年3月17日に第4回研究委員会を第四紀学会主催の公開シンポジウムとして東京大学にて開催した。 参加者は、約50名であった。この委員会では、「14Cウイグルマッチング研究の現状および将来の展望」を主題にして、 6名の講演があった。今村峯雄・中村俊夫・尾嵜大真の3氏により、ベイズ統計に基づくウイグルマッチングの基本原理、年代決定の 誤差を絞り込む限界、ウイグルマッチングに利用する較正データの日本版作成の推進状況が、また、奥村晃史・小林謙一・中尾七重 の3氏から応用研究として、自然災害予測、縄紋土器編年、文化財建造物への応用が紹介された。年輪年代法が適用できない木材試料 の高精度年代推定に係わる応用が大いに期待できることが示された。
 今後も、14C年代の応用に関して公開シンポジウムを開催する計画である。多くの会員の参加を期待する。
 なお、今夏にオーストラリアで開催された第四紀国際会議(XVII INAQUA Congress)では、14C法、TL、OSL法、 ESR法、U-Th法、古地磁気法、などによる第四紀試料の年代測定結果の報告が盛りだくさんに行われ、第四紀研究における 年代測定の重要性が確認された。また、14C年代の較正に関して、現行の最新版であるIntCal04 (AD1950-26,000 cal BP の較正年代区間で対応可能)が、近々改訂されるようなニュアンスの報告があった。改訂版では、 14C年代測定の古い年代限界である50,000 cal BP まで対応するようである。

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